不妊治療は採卵・移植などで急に休みが必要になることも多く、仕事との調整が大きな悩みです。しかし年次有給休暇・傷病手当金・不妊治療連絡カード・時間単位有給など、使える制度を正しく知ることで、仕事を続けながら治療に取り組める環境を整えることができます。
①不妊治療と仕事の両立——現状と課題
結論:不妊治療中の方の多くが仕事との調整に悩んでいます。「通院日が読めない」「急に休みが必要」「職場に言いにくい」という3つの壁が両立を難しくしています。
不妊治療のスケジュールは月経周期や卵巣の状態によって毎回変わります。特に体外受精では採卵日・移植日が直前まで確定しないことが多く、急な休みが必要になるケースもあります。また、両立に困難を感じる理由には、通院回数の多さ、精神面での負担の大きさ、通院と仕事の日程調整の難しさがあります。
タイミング法・人工授精:1周期あたり2〜6回(1回1〜2時間程度)
体外受精・顕微授精:1周期あたり4〜12回(1回1〜3時間+半日〜1日の通院1〜2回)
採卵など急に日程が決まる / 先の予定が立てられない / 職場に伝えるタイミングが難しい / 急な休みを言いにくい / 通院の多さが理解されない
②使える休暇制度を知ろう——有給・特別休暇・傷病休暇
結論:不妊治療に使える休暇制度は大きく4つあります。まず「年次有給休暇(時間単位含む)」を活用し、足りない場合は会社の特別休暇制度・病気休暇・フレックス制度を確認しましょう。
📋 年次有給休暇(最も使いやすい基本制度)
労働基準法で保障された権利で、理由を問わず取得できます。不妊治療であることを伝えずに取得できるため、プライバシーを守りやすいのが最大のメリットです。
時間単位有給の活用が特に有効:労使協定を締結している会社であれば、年5日を上限に1時間単位で有給を取得できます。1〜2時間の通院のために1日休む必要がなくなり、有給の消耗を大幅に抑えられます。厚生労働省の調査でも「有給を時間単位で取得できる制度」のニーズが特に高くなっています。
積立有給(失効有給の積立):通常は消滅する有給(2年で時効)を最大40日まで積み立て、不妊治療や私傷病に使用できる制度を設けている会社もあります。就業規則を確認しましょう。
🏥 病気休暇・特別休暇(会社独自の制度)
有給休暇とは別に、会社が独自に設ける傷病・特別休暇制度です。不妊治療を含む私傷病を対象とした「病気(傷病)休暇」が設けられている場合、有給休暇とは別枠で休みが取れます。
近年、独自の「不妊治療休暇」「チャイルドプラン休暇」などを設ける企業も増えています。まず自社の就業規則・福利厚生を人事労務担当者に確認することが第一歩です。国家公務員については2021年12月から「出生サポート休暇(不妊治療に係る通院等のための休暇)」が新設されています。
⏰ フレックスタイム制・テレワーク・時短勤務
フレックスタイム制は、あらかじめ決められた総労働時間の範囲内で出退勤時間を自由に設定できる制度です。通院時間に合わせて出勤・退勤時間を調整できるため、有給を消費せずに通院しやすくなります。テレワーク(在宅勤務)との組み合わせも有効です。
時短勤務・所定外労働の免除申請が就業規則で認められている場合、不妊治療中の体調管理にも役立ちます。
🏦 傷病手当金(長期休業時の生活保障)
健康保険に加入している会社員・公務員が、業務外の病気・けがで連続4日以上仕事を休んだ場合に支給される手当です。支給額は標準報酬日額の約3分の2で、最長1年6か月受給できます(2022年法改正で通算に変更)。
不妊治療での受給に必要な4条件:①業務外の療養であること(不妊治療は該当)②医師が「労務不能」と診断・証明していること③連続3日間を含む4日以上仕事を休んでいること(最初の3日は待期期間)④休業中に給与の支払いがないこと
重要な注意点:有給休暇を使って休むと④の「給与の支払いがない」条件を満たせないため、傷病手当金を受け取れません。待期期間の3日間のみ有給を充当し、4日目以降を欠勤扱いにする方が受け取れる金額が多くなるケースがあります。
傷病手当金の最大のハードルは「医師が労務不能と診断・証明すること」です。「通院のため休む」だけでは認められません。「治療に伴う症状(採卵後の腹部膨満・ホルモン治療による体調不良・精神的な症状など)により働けない状態にある」という医師の判断が必要です。担当医に状況を正直に伝え、相談することが重要です。
③職場への伝え方——不妊治療連絡カードの活用
結論:職場への伝え方は「誰に」「何を」「どのタイミングで」伝えるかが重要です。厚生労働省の「不妊治療連絡カード」を活用すると、医師から職場への正式な連絡書として使えます。
🔍 まず自社の制度を確認する
就業規則・福利厚生一覧を確認し、「病気休暇」「特別休暇」「フレックス制度」「時間単位有給」が導入されているかを調べます。人事・労務担当者への相談が窓口として適切です。不妊治療であることを伝えたくない場合は「通院が必要な治療がある」程度の説明でも制度の確認はできます。
📋 不妊治療連絡カードを入手・活用する
厚生労働省が作成した「不妊治療連絡カード」は、主治医が治療内容・通院頻度・配慮事項を記載して職場に提出するためのカードです。口頭での説明より医師の公式な文書として受け取ってもらえるため、職場の理解を得やすくなります。
クリニックに「不妊治療連絡カードの記載をお願いしたい」と伝えましょう。無料で対応するクリニックが多いですが、有料の場合もあります。ただし、2025年10月時点のアンケートでは、この連絡カードを「活用した」と答えた方はわずか5%にとどまっており、多くの方が存在を知らないまま活用できていないのが現状です。
🤝 上司・人事への伝え方のポイント
職場に伝えるタイミングについては、「通院後しばらくしてから(42%)」「治療開始前(30%)」が多いとされています。治療スケジュールが確定した段階で伝える方法が、調整しやすく職場への影響も予測しやすいです。
伝える際のポイント:①「不定期に通院が必要な治療を受けている」と事実を伝える ②「急な休みが必要になる場合がある」ことを事前に共有する ③「業務への影響を最小限にする工夫をしたい」と前向きな姿勢を示す ④具体的な制度(時間単位有給・フレックス等)の利用を希望する旨を伝える
💡 「くるみんプラス」認定企業を選ぶのも一つの選択肢
2022年4月から不妊治療と仕事の両立に取り組む優良な企業に対する「くるみんプラス」認定制度が創設されました。転職を検討している場合、このマークを取得している企業は不妊治療への理解と制度が整っている目安になります。厚生労働省の両立支援のひろばで検索できます。
④治療ステップ別の休み方の工夫
結論:治療のステップによって必要な休み方が変わります。タイミング法・人工授精は時間単位有給で対応できることが多く、体外受精では採卵・移植日に合わせた計画的な休暇取得が重要です。
| 治療ステップ | 必要な通院・休みの目安 | おすすめの休み方 |
|---|---|---|
| タイミング法 | 1〜2時間×2〜4回/周期 排卵日前後に集中 |
時間単位有給・フレックスで対応できることが多い |
| 人工授精 | 1〜2時間×2〜6回/周期 処置当日は1〜2時間 |
時間単位有給・半日有給での対応が多い |
| 体外受精 (採卵周期) |
1〜3時間×4〜10回 採卵日は半日〜1日 |
採卵日は有給1日取得。通院はフレックス・時間単位有給 |
| 体外受精 (移植周期) |
1〜2時間×3〜5回 移植日は数時間 |
移植日は半日〜1日有給。術後は安静が必要な場合も |
| 採卵後OHSS等 体調不良 |
症状により数日〜1週間 | 傷病手当金の対象になる可能性あり。医師に相談を |
💡 急な通院に備える「仕事の引き継ぎ準備」も重要
採卵日など急に決まる通院に備え、日頃から業務の引き継ぎ資料を整備しておくことが有効です。「急に休む場合の対応」をチーム内で事前に共有しておくと、休みが取りやすくなります。テレワーク可能な業務を把握しておくことも役立ちます。
⑤よくある質問(FAQ)
まとめ|制度を正しく知って、仕事と治療の両立を
- ✓不妊治療経験者の26.1%が仕事との両立ができず離職・雇用形態変更・治療中断をしている
- ✓年次有給休暇は理由不問で取得できる権利。時間単位(年5日上限)の活用が特に有効
- ✓まず自社の就業規則を確認。病気休暇・特別休暇・フレックス制度が使える場合がある
- ✓傷病手当金は連続4日以上の休業+医師の労務不能証明が必要。有給使用中は受給不可
- ✓厚労省の「不妊治療連絡カード」を活用すると職場への公式な配慮依頼として機能する
- ✓不妊治療を理由とした不利益な扱いは法律で禁じられている。不安な場合は労働局に相談を
- ✓「くるみんプラス」認定企業は不妊治療への理解と制度が整っている目安になる
不妊治療と仕事の両立は、正直に言うと簡単ではありません。しかし、制度を正しく知り、職場に適切に伝えることで、仕事もキャリアも守りながら治療に取り組める環境を整えることは十分可能です。
「一人で抱え込まず、使える制度を最大限に活用すること」が、長期戦になりやすい不妊治療を続けるための大切な考え方です。まず自社の制度確認と、クリニックへの連絡カードの相談から始めてみてください。



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